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山田稔明さんインタビュー その1 [book]

『猫と五つ目の季節』の著者、山田稔明さんにロングインタビューしました。山田さんが文章に興味を持ったきっかけから、この本を書くことになったいきさつ、執筆での裏話などなど、面白いお話がたくさん聞けました。3回にわけて掲載します。

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ーこれが初小説ですよね。

山田 本格的な小説を書くのは今回が初めてですが、12年ほど前に短編小説を書いてみないかというお話をいただいて、少しだけ書いたことがあります。 僕がやっているGOMES THE HITMANというバンドで『omni』というアルバムをリリースした頃でした。
その時は完全なフィクションを書いたのですが、自分のやりたいことと少し違うと思ったんです。元々文章を書くことは好きだったのですが、何かしっくりこなくて。書くこと自体は楽しかったのですが、1本書いたところで筆が止まってしまいました。1本だけ書いた短編は「夜の科学」というタイトルで、ある冊子に掲載してもらいました。

ー東京外語大学で英米語学を専攻していたそうですが、その時には文章を書いていたのですか。

山田 英米文学をたくさん読むようになって、文章に慣れ親しんでいましたがバンド活動に熱心で、文章は書いていませんでした。でも、それよりさらに遡ると、小中学校の頃は国語の成績はずっと5で、子ども心に漠然と自分はこの能力で生きていくことになるのかなという思いがどこかにありました。

ー小学生の頃に詩が新聞に載ったことがあるんですよね。

山田 小学校の低学年の頃に書いた「夜のカーテンがおりてくる」という詩が朝日新聞に載って、小学校6年生の時に作文コンクールで優秀賞を取ったことをよく覚えています。自分では何を書いたか全く覚えていないけれど、未だに小学校の頃の友人と会うと、「山田のあの作文がすごく良かった」と言ってくれます。その友人は作文の内容まで記憶していて、「まるで自分が体験しているような文章で、感動した」と言ってくれました。

ー大学時代に結成したGOMES THE HITMANは、最初から日本語の歌を歌っていたんですか。

山田 結成した頃から僕の書いたオリジナル曲を演奏していたのですが、最初は英語詞でした。でも小沢健二の『犬は吠えるがキャラバンは進む』というアルバムに出会ってからは、何を言っているのが聞いている人に伝わらない英語で言葉を書くことを無駄に思うようになったのです。伝えたい熱いメッセージがあるわけではないけれど、自分が書く言葉をちゃんと理解して聞いてもらいたいという欲が出てきて、それから歌詞を日本語で書くようになりました。その頃から、曲を書くことは歌詞を書くことだという認識に変わっていきました。今でもそう考えていて、聞いている人に言葉の意味がちゃんと伝わるように意識して曲を書いています。

ー大学時代に書いた日本語のオリジナル曲は、風景描写がいいと評判になったという場面が小説の中にも登場しますが、それが自信にもなったんですかね。

山田 周囲の友人たちに最初に評価してもらったのが、歌詞の風景描写でした。僕は大きな声で伝えたい強いメッセージは特になくて、丁寧に風景描写をすることで何かを伝えることをしたいと考えています。それもあって、心理描写を避けて表現しているのだと思います。俯瞰して、遠くから眺めた風景を子細に綴っていくのですが、それは風景画を描くことに似ているかもしれません。

ーこの小説にも、作詞で培ってきたその手法が生かされていますよね。心理描写を積み上げていくタイプの小説は多いですが、あえてそれをしないで日々の風景や季節の変化、日常の機微を丁寧に書くことで、誰もが自分のことに置き換えて読むことができる物語になっていると思います。

山田 初めてこれだけ長い小説を書いてみて、自分の性格や、こうやって伝えたいというのが素直に文章に投影されるということを感じました。いつも人に何かを伝える時に、何があっても声を荒げることはしたくないというのがあって、それが小説の文体にも表れていると思います。

ー猫とのことを小説にして欲しいと依頼があった時は、正直どうでしたか。

山田 ポチが亡くなって、その後に起きたことの流れが自分でも信じられない奇跡の連続で、その時間軸を客観的に見て面白いと思っていたから、それを何かしらに残したいとは思っていました。数年前から『MONOLOG』という冊子を作っているので、そこにエッセイとして書いてもいいかなとか、ぼんやりとは考えていました。でも、小説にしないかと言われて、すっと腑に落ちましたね。

ーほぼ即答で「たぶん書けると思います」と言っていましたよ。

山田 ポチと暮らし始めた2001年の秋、最初に動物病院に連れていった時から看病日記をつけていたし、その後もポチのことをずっとブログに書いていて、この13年間を綴った膨大な記録を何とか形に残したいという気持ちはありました。看病日記には診察内容、病状以外に診察代も詳細に記録してあって、その看病日記を元に、猫を育てるための指南書としてエッセイにまとめることもできるかなとも思っていました。初めて猫と一緒に暮らす人が読んだら「こんなに面倒でお金もかかるものなのか」と思うだろうなと。小説と言われた時、それも上手いこと落とし込みながらまとめられると思いました。それに、「ポチが死んでしまって悲しいな。今までありがとう」だけで完結していたらあまり前向きな話にはならないのですが、嘘みたいな続きがあって、その日々が今も続いているから、小説という形でまとめることができる、と直感的に思ったのかもしれません。

ーまず古今東西の猫が登場する小説を山田さんに大量に送って、それを読んでもらうことから始めました。それ以前に、猫を題材にした作品は読んだり観たりしていましたか。

山田 もちろん猫好きなので、いろんな作品に触れてきましたが、あのタイミングで改めて猫の物語を読んでみて、とても面白かったですね。僕も猫への偏愛ぶりを指摘されることは多いのですが、送ってもらった作品を読んで、みんな同様に猫への強い愛情を持っていることに安心しました。猫への偏愛ぶりを書いた作品がこんなにたくさんあるのだから、僕もおおっぴらにポチへの愛を書いても大丈夫だって自信をもらいました。もちろん、愛情の温度も距離感もそれぞれ違っていて、そこも興味深かったですね。

つづく

『猫と五つ目の季節』予告編CMが完成しました。ぜひご覧ください。

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