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『この世界にようこそ』ができるまで その2 [book]

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『この世界にようこそ』ができるまで その2
対談 広瀬裕子(作者)× 藤原康二(編集)


■葉山に引っ越し。そして震災

藤原 引っ越しをして、変化はありましたか。
広瀬 大きく変わりました。仕事のペースだけではなく、考え方も、関わる人も変わりました。それまでは仕事関係の人とのつき合いが中心になっていたのですが、葉山に来て、仕事とは関係のない、いい友人たちとたくさん出会うことができました。
藤原 そういえば、引っ越しをする直前くらいの頃に、原宿にあったカフェ「アンノンクック」でお会いしましたね。
広瀬 その後、ミルブックスが企画したイベントにも遊びに行かせていただいて。仕事ではまったく絡んだことはないけど、なんとなくお互いに顔は知っていて、お話したことはあるという関係でした。それからすぐに葉山に引っ越して、しばらくお会いすることもなく。
藤原 葉山に引っ越して、自分のペースを取り戻すことができましたか。
広瀬 はい。それはもう完全に。すっかり落ち着きました。暮らしそのものが中心の日々。それまで忙しかったこともあり、葉山のゆったりした時間の流れのなかでは、それまでのようなリズムで書くこともできなくなって。もう少しうまく調整すればよかったのかもしれないけれど……。それから数年間、1年に1冊くらいのゆったりとしたペースで執筆活動をしていたところに、2011年3月のあの日がやって来たのです。
藤原 広瀬さん、すぐに西に向かったんですよね。
広瀬 福島で果樹園をしていた安斎伸也さん一家が避難をして、震災の翌日に葉山に来たんです。私も3月13日には移動を始めました。その時は、先のことはあまり考えていなくて、とりあえず西に行こうと。元々、3月16日からアメリカのバークレーに行くことになっていたので、関西国際空港に向かいました。10日ほど滞在して、再び関西国際空港に戻ってきました。原子力発電所が水素爆発をした映像を見た時は、もう日本には戻ってこられないかもしれないと思い、行きの飛行機の中で号泣していたことをよく覚えています。
藤原 帰国したら西に移住しようと考えていたんですか。
広瀬 そうですね。いろいろあったのですが、四国の高松に移住することを決めました。震災のこともあって、しばらくは何かを書こうという気にはなれませんでした。一冊、インタビューしたものをまとめた本を出しただけです。
藤原 震災のこともありますが、執筆活動をしなかったのは高松で住み始めたことも大きかったのでしょうか。
広瀬 やはり、震災が大きかったです。まわりに出版の仕事をしている人が少ないというのもあったと思います。


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安斎一家の震災からの2年間を中川ちえさんの文と馬場わかなさんの写真で描いた『まよいながら、ゆれながら』もミルブックスから発表しました。



■やっぱり私は本が作りたい

広瀬 でも、高松に住み始めて1年すぎた頃から、少しずつ本を書く仕事がしたいという思いが強くなってきました。そのためには、どうしたらいいかということを真剣に考え始めて。最初は、高松で執筆を続ける方法を考えていました。
藤原 やはり、それは難しかったんでしょうか。
広瀬 他にも、いろいろなことが重なって。たまたま、以前住んでいた葉山のお隣の鎌倉に、いい物件を紹介してもらったこともあって。無理をして高松で活動するよりも、自分のペースで本を作ることができる場所に一度、帰るのもひとつだなと考えるようになりました。それで2013年12月に今住んでいる鎌倉に戻ってきました。
藤原 たしか、広瀬さんと初めて本の打ち合わせをしたのが2014年1月だったから、鎌倉に来てすぐだったんですね。
広瀬 その直前に、ミルブックスから本を出している徳島のアアルトコーヒーのロースターの庄野雄治さんと鎌倉でお会いすることになったんです。高松にいた頃、何度かコーヒー豆を買いにいったことはあったのですが。
藤原 庄野さんから、「どうやら広瀬裕子さんが本を出したいモードになっているから、一度連絡してみては」とメールをいただいたんです。
広瀬 ミルブックスの本の作り方をお聞きして、面白いなと思ったんです。でも、随分お会いしていないし、面識はあるものの一緒に仕事をしたこともなかったので、どうしたらいいものかと思っていたら、庄野さんが「私が紹介しますよ」といって藤原さんに連絡してくれたのです。
藤原 カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュの堀内隆志さんの本の制作中で鎌倉によく通っていた時期だったので、ディモンシュでまずは雑談しようということになりました。
広瀬 その時はまだ書きたいものが具体的になっていなくて、曖昧なことを言ったような気がします。書きたいことははっきりしないけど、ミルブックスがこれまで出してきた本のカラーに合ったものが書けた時、一緒に本を作れたらいいなと思いました。
藤原 私も、特に締め切りはないので、ミルブックスで出したいと思ったものが書けた時、本にしましょうとお話させていただいたことをよく覚えています。あと、大手さんのように潤沢な予算もないので、お金のかかることもできませんとお伝えしたような。
広瀬 そうそう。締め切りもないけど、予算もないって言っていましたよ(笑)。

その3へつづく
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2015-05-14

■その1はこちら
http://millebooks.blog.so-net.ne.jp/2015-05-12-1



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