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『コーヒーの絵本』をつくろうと思った理由 [book]

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 10/1に発売した『コーヒーの絵本』おかげさまで好評いただき、発売2週間で増刷が決まりました。自分で淹れたことがなかった方から、「この本がきっかけで自分で淹れてみた」「ミルを買って、豆を挽いて淹れるようになった」などなど嬉しいお話をたくさんいただいています。

 この本をつくろうと思ったきっかけを書かせていただきます。長文ですが、お読みいただけたら幸いです。

 2012年に『はじめてのコーヒー』という本(↑写真の左)を出版しました。この本はカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュの堀内隆志さんとアアルトコーヒーの庄野雄治さんによる対話形式で、コーヒーの基本から淹れ方までをわかりやすくまとめております。
 ふたりとの出会いがきっかけで、よりコーヒーに興味を持つようになりました。それから、コーヒーに関する本をいろいろと読んでみたのですが専門書的なものが多く、たとえ入門書とうたっていても情報が多くて、すっと理解できるものは多くありませんでした。マニアな方向に行きがちなコーヒーの世界、もっと気軽にコーヒーのことを知るきっかけをつくる方法ないだろうかと考え、ディモンシュ堀内マスターとアアルトコーヒー庄野さんに、コーヒー初心者のためのトークショーをお願いしました。

 そのトークショーは本当に楽しく、コーヒーのことがよーくわかるものでした。誰もがすぐに実践できる内容で、これを1冊の本にまとめたら、きっと世界でいちばんやさしいコーヒーの本ができるに違いないと考えて、ふたりに相談したところ快諾いただきました。トークショーの内容をベースに、よりわかりやすく丁寧に執筆いただき完成したのが『はじめてのコーヒー』という本です。福田利之さんに挿絵を描いていただき、見た目にも楽しいコーヒーの本が完成しました。『はじめてのコーヒー』は大変好評をいただき、発売1年半で4回増刷し、発売から2年経った今でも多くの書店さんで面出ししていただいております。

 もうこれ以上やさしいコーヒーの本はないだろうと自信満々で送り出したのですが、それでもまだ「情報が多くて何から始めればいいのかわからない」「コーヒーのことはわかったけど、自分でコーヒーを淹れてみようとまでは思わなかった」という意見をいくつかいただきました。
 偶然ですが、『はじめてのコーヒー』が発売された頃から、コーヒーをメインにしたカフェやコーヒースタンドが増えたり、コンビニの挽きたてコーヒーが人気になったりと、コーヒーが注目を集めるようになりました。しかし、様々なところで目にするコーヒーに関する情報は、どうも偏っていたり、カッコいいアイテム(ファッションの一部のような)という捉え方の表現が多く、見ていて納得のいかない内容が大半でした。雑貨屋さんでもコーヒー器具を扱うお店が増えたのですが、かわいさ重視で、使い勝手がいいとはいえない商品がオススメされているのもよく目にします。

 今年のはじめ頃、アアルトコーヒーの庄野さんとゆっくりお話をした時に、昨今のコーヒーを取り巻く状況についての話題になりました。せっかくコーヒーへの関心が高まっているのに、一過性のブームで終わってしまいかねない。今流行っているからという理由で、よくわからずコーヒーを買ったり淹れたりしている人に読んでもらえる、今度こそ本当に必要最低限のことを伝えるコーヒーの本をつくろうと相談しました。そして、その本は長く長く読んでもらえるものにしようと。
 そのためには、文章中心の本ではなくビジュアルで魅せる必要があること、時代性が出ないようしなければならないこと、読んだ人の創造力で内容が膨らむ本にしたいという話をしました。写真で表現すると、どうしても時代性が出てしまったり、イメージが限定されてしまいます。そこで思いついたのが「絵本」。絵本であれば、大人も子どもも楽しめる、楽しくわかりやすいコーヒー本ができると考えました。こうして『コーヒーの絵本』の制作が始まりました。
 最初に、掲載したい必要最低限度の内容を庄野さんに書き出してもらい、それをどんどん削っていく作業を繰り返しました。その内容をお話に落とし込む作業も同時に進行しながら、文章をタイトにしていき、最初の1/3まで絞りました。

 そして、この本の要になるのが絵。庄野さんは当初から平澤まりこさんにお願いしたいと考えていたようで、雑談の段階から「平澤さんの絵なら、この本は絶対にいける!」と話していました。私も平澤さんの絵は大好きなので、いい本ができると迷わずお願いをしました。平澤さんと打ち合わせをする前に、自分の中で考えていたのが、色数をあまり使わない絵本でした。参考イメージとしたのが、ファッションデザイナーのイブ・サンローランが20歳のころに出版した『おてんばルル』という絵本。黒と赤だけで描かれた本で、この本のようなシンプルな表現を考えていたところ、最初の打ち合わせで平澤さんが参考に持ってきたのが、赤と黒だけで描かれたシンプルな大人のための絵本でした(『おてんばルル』とは違う本ですが)。この時点で、私と庄野さんは平澤さんにお願いすれば間違えないと確信しました。平澤さんには、最低限描いて欲しい内容と、「普遍性のある絵」とだけお願いして、自由に描いていただきましたが、想像以上に素晴らしい絵を仕上げてくれました。

 デザインは平澤さんのアイデアで、kiddの矢部綾子さんにお願いすることにしました。矢部さんの仕事は雑誌『mürren』で見ていていました。シンプルかつ美しいデザインで、何より読みやすいという点が素晴らしいと思っていました。おしゃれなデザインよりも、今回は読みやすい誌面にすることが一番大事と考えていましたが、矢部さんのおかげで繰り返して読みたくなる本に仕上がりました。
 
 クレジットされていませんが、平澤さんと矢部さんは編集面でも大きく貢献してくれました。コーヒー初心者に向けた本なので、専門的な話は絶対に載せないと考えたのですが、『はじめてのコーヒー』編集時にコーヒーのことを勉強してしまった影響で、知らず知らず専門的な話を少し盛り込んでしまっていたのです。もちろん庄野さんはもっとコーヒーに精通しているので、ふたりともその境がわからなくなっていました。平澤さんと矢部さんは、運良く(?)コーヒー初心者だったので、難しい内容、初心者には必要ない内容を指摘いただき、本当に必要なことだけを精査することができました。

 『はじめてのコーヒー』の帯には「(たぶん)世界でいちばんやさしいコーヒーの本」と(たぶん)が入っていましたが、『コーヒーの絵本』では「世界でいちばんやさしいコーヒーの絵本」と書きました。この本が出た後、庄野さんは「これが最後のコーヒーの本になります(たぶん)」と言ってましたが、ミルブックスから出る「コーヒーの入門書」もこれが最後になります(コーヒーに関連する本は出すと思いますが)。最後に、本のおわりに書いた文章を紹介させていただきます。

コーヒーは、絶対に必要なものではない。
だけど、おいしいコーヒーがあるだけで、日々のくらしはずっとゆたかになる。
自分の好きなコーヒーが、家でいれられるようになる。それだけで毎日は変わるんだ。
豆を挽いて、ていねいにお湯を注ぐ。大きく息を吸いこんで、ゆっくりとはく。
コーヒーがふくらみはじめ、幸せな香りが広がっていく。
うん、今日もいい日になりそうだ

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